プロメトリック株式会社様“すべての人に公平公正な機会を”。CBT業界で初の総務省好事例に選ばれたウェブアクセシビリティ施策の舞台裏【前編】
CBT(Computer Based Testing)形式による試験運営、試験問題開発をグローバルに展開し、国内外で多様な受験者にサービスを提供しているプロメトリック株式会社。
米国プロメトリックの日本法人でもある同社は、「すべての受験者に公平公正な機会を」という理念のもと、受験現場での配慮に加え、情報へのアクセシビリティ確保にも本格的に取り組み始めています。
このたび、ディーゼロではプロメトリック様のウェブアクセシビリティ対応プロジェクトをご支援させていただきました。
今回はプロメトリック株式会社の営業・事業開発部門 マネージャー 磯部様、マーケティング部門 マネジャー 小松様、そしてディーゼロの坂井、高木を交えて、プロジェクトがどのように進んでいったのか、また取り組みによる成果について振り返りました。
数年ぶりのサイトリニューアル。より多くの方に情報を届けるため、部署横断チームで推進
―ディーゼロとの取り組みが始まった経緯を教えてください。
磯部:ディーゼロさんとやり取りを始めたのは、今から約3年前のことです。時期としては10月か11月頃だったと記憶しています。当時、弊社にはマーケティング部門がなく、ウェブサイトもリニューアルが遅れている状態でした。スマートフォンには未対応で、パソコンでの閲覧もやや見づらく、横幅の調整もされていない状態。今思えば、どこか少し懐かしさを感じるようなデザインでした。
このままではいけないという危機感から、社内で「サイトリニューアルプロジェクト」を立ち上げることになり、各部署からメンバーを募って横断的なチームを編成。ようやくプロジェクトが動き出しました。
実はそれ以前から、ウェブサイトの刷新やマーケティング施策については社内でも議論されていたのですが、なかなか社内調整が進みませんでした。当時はマーケティング専任の体制が未整備で、限られたリソースの中で優先順位を見極めながら対応していました。今回のリニューアルを機に、体制強化と予算確保を進めることにしました。
より多くの受験者の方々に当社のサービスを届けるため、情報発信の強化とリード獲得に向けた体制づくりを進めることが、今回のプロジェクトの出発点となりました。
ただ、当時のサイトは検索してもなかなか上位に表示されず、広告を出しても流入につながらないという、いわば「受け皿のない状態」でした。まずは検索に強いサイトをつくること、つまり“検索に耐えうる器”を整えることが急務でした。そのうえで、検索される回数やヒット率を高めていくという2軸で取り組む必要があると考えました。
こうした背景もあり、「このフェーズからは専門性のあるパートナーが必要だ」と判断し、しっかりと予算をつけ、マーケティング部門を新設することになったのです。
―アクセシビリティ対応については、どのタイミングから本格的に考え始めたのでしょうか?
磯部:比較的早い段階だったと思います。ウェブサイトをリニューアルするにあたって、複数の制作会社さんにお話を伺ったんですが、その中でディーゼロさんにお願いすることに決めた時点で、実はすでに「アクセシビリティ」という言葉が出てきていたんです。
我々のプロジェクトは、社内のさまざまな部署からメンバーが集まった横断的なチームで構成されていました。そのため、進めるうえで共通の「軸」や「指針」となる考え方が必要だと感じていました。
「どのようなサイトであるべきか?」という問いに対して、アクセシビリティの考え方が一つの指針になると感じたんです。「こういう観点が必要だよね」と、早い段階から社内でも話題に上がっていました。
坂井:最初の提案資料の中にも「アクセシビリティ対応」という記載がありました。当初から「リニューアル後にそこを目指していきましょう」という方針が、すでに共有されていたように思います。
―米国プロメトリックと比べると日本法人の対応が少し遅れていた、というような認識はあったのでしょうか?
磯部:そうですね、グローバルでは比較的早い段階から、ウェブサイトの刷新やプロモーション活動の強化が進められていた印象があります。特にコロナ禍以降、オンラインでの情報発信やブランド管理に対する意識がより高まっていたように感じています。
当社のビジネスはグローバルに展開していることもあり、各国の状況に応じた柔軟な対応が求められます。そうした中で、日本法人としても、より発信力のあるサイトや、効果的なマーケティング体制の構築が必要だと再認識するようになりました。
そのような背景もあり、今回のリニューアルは、単なるデザインの刷新というだけでなく、「情報発信のあり方を見直す」重要な転機となったと思っています。
―米国プロメトリックとは、ウェブサイトのリニューアルにあたって、何か連携などはされたのでしょうか?
磯部:はい、ブランド全体としての統一感は大切にしつつも、日本法人としての独自性を活かす形を取りました。たとえば、デザインのトーンやカラーなどはグローバルのガイドラインに準拠しながらも、国内のユーザーに最適なコンテンツ構成や導線を重視して進める方針にしました。
ちょうどその頃、グローバル側でもウェブサイトの見直しが検討されていたのですが、日本市場には日本ならではのニーズや情報設計があります。そのため、国内のユーザーにとって使いやすいサイトを目指すには、日本独自の進め方が望ましいと判断しました。
―今回、初めてウェブサイトをリニューアルされたということですが、どのような優先順位でプロジェクトを進めていったのでしょうか?
磯部:最初に注力したのは、「誰にとって、どんなサイトにするのか」という方向性の明確化です。訪問される方の多くは、受験者の方々で、「自分の試験に関する情報をすぐに探したい」というニーズがあります。一方で、試験主催団体のご担当者や、試験会場の運営パートナーの方々など、他のステークホルダーの存在も非常に重要です。
そこでまず、主要なユーザー像を整理し、それぞれがどのような情報を求めているのかを丁寧に洗い出す「ペルソナ設計」からスタートしました。その上で、情報構造や導線を見直し、目的の情報にスムーズにたどり着ける設計を目指しました。
これまでは、試験ごとに似たようなFAQや案内が重複していたり、情報の流れが分かりづらかった部分もありました。今回のリニューアルでは、共通情報は一元化しつつ、試験ごとの分岐も最小限に。たとえ動線が分かれても、必要なときに共通ページに戻れる構造にすることで、ユーザーにとっても、運用する側にとっても、よりスムーズな仕組みになったと感じています。
―先ほど「自分たちでメンテナンスしづらかった」とおっしゃっていましたが、他に管理面で特に課題だった点はありましたか?
磯部:もっとも大きなポイントは、以前のサイトにはCMS(コンテンツ管理システム)が導入されていなかったことです。たとえば「FAQ」や「本人確認書類」に関するご案内は、ほとんどの試験で共通の内容です。しかし、以前は試験ごとに個別にページが作られており、それぞれに似たような情報が掲載されていました。
このような構成では、情報の更新や管理が複雑になってしまい、効率的な運用が難しいと感じていました。そのため、今回のリニューアルでは「情報の一元管理」を重視し、CMSの導入を最優先事項の一つと位置づけました。これにより、サイト全体の保守性が大きく向上し、よりスピーディかつ正確に情報発信ができるようになったと思います。
坂井:サイトの構造設計、たとえばディレクトリマップなども含めて、ペルソナ設計からしっかり見直して、そこから“ゼロベースで作る”という判断ができたのは大きかったですよね。つまり、「ローカライズ」ではなく、「日本は日本として1から作る」と最初に意思決定したことがすごく重要だったんだなと。
上から「このCMSを使って」とか「このグローバルテンプレートに従って」といった指示があったら、日本独自のやり方に適用できなかったと思います。そういう意味でも、大きなポイントだったのではないでしょうか。
“受験者に正しく情報を届ける”ため、アクセシビリティに強いパートナーを選んだ
―外部の制作会社を選定されたのは、どのタイミングだったのでしょうか?また、候補となる制作会社は何社くらい検討されたんですか?
磯部:検討を始めたのは、2022年の夏頃だったと思います。そこから社内で準備を進め、秋にはプロジェクトを本格的にスタートさせました。候補としては数社とお会いしたのですが、私たちの方針やタイミングに合っていると感じた企業にスムーズに決めることができました。
当時は「まずはサイトの“器”を整えることが先」という明確な方針がありました。というのも、弊社のサイトを訪れる方の多くは受験者の方々で、何よりも正確な情報を迷わず届けることが最優先だったからです。デザインやプロモーションも重要ですが、それ以上に「見やすさ」や「情報の構造」「アクセシビリティ」といった基盤が整っていることが欠かせないと考えていました。
その観点で、当時の私たちの課題やニーズに最も合っていたのがディーゼロさんでした。
小松:アクセシビリティに強い制作会社さんって、意外と少ないんですよね。私自身、転職前を含めていろんな制作会社の方とお会いしたことがあるのですが、多くは「プロジェクトマネジメントに強い」とか「広告に強い」「技術力がある」といった特徴を持っていても、「アクセシビリティに強い」と明言する会社に出会ったことはほとんどありませんでした。
そういった意味でも、ディーゼロさんがアクセシビリティに強みを持っているというのは、今回選定させていただいた理由の一つとして、大きかったのではないかと思います。
また、実際にディーゼロさんにお願いして、本当に良かったと思うことがたくさんあります。特に高木さんのプロジェクトマネジメント力は素晴らしいです。プロメトリックの一制作会社としてではなく、「我々のビジネスをどう成功させるか」という視点で、まるでプロメトリックの一員かのように、深く入り込んで動いてくださっているのがとてもありがたく思います。
高木:私は表に立つ立場ですが、その裏では多くの専門性を持つメンバーが動いていて、チームで支えているというのが実情です。
坂井:アクセシビリティのプロジェクトって、やっぱり特殊なんですよね。私自身は営業的な立場でもあるので、お客様の声を代弁しつつ現場とやり取りすることが多いんですが、それと同時に、社内には他にも専門家としての視点を持ったメンバーがいます。
プロメトリックさんとのやり取りでも、「ここはお任せください」と言える部分と、「ここは専門家として意見を通すべき」と判断する部分がありました。たとえば「これは適合で問題ないんじゃない?」という意見が出たときでも、専門家の立場からは「これはちゃんとプロメトリック様にヒアリングした上で判断すべき」と主張がある。
社内ではそういう議論をかなり真剣に、時には言い合いのような形で交わしています。でも、そのプロセスも含めてプロメトリックさんには全部オープンにしていますよね。
実際、「ここは譲れないポイントなんだな」とか、「これは対応できそう」といったことを、磯部さんや小松さんにも察していただけていて。そういう意味では、いわゆる“制作会社とクライアント”という枠を超えて、本当に“一緒にやっているチーム”という感覚がありました。
「ここまで見せちゃっていいのかな?」と思う瞬間もありましたけど(笑)、でもそれも含めて「一緒に品質をつくる」という共通認識を持てていたと思っています。
CMS導入から多言語対応、アクセシビリティの取り組みへ。多様なユーザーに応えるために段階的に改善
―社内ではどの部署からどのような人たちが関わり、何名くらいでプロジェクトチームを組まれたのでしょうか?
磯部:今回のリニューアルは、「フェーズ1」「フェーズ1.5」「フェーズ2」と大きく3段階に分けて進めましたが、最も多くのメンバーが関わったのが最初のフェーズ1でした。
当初は、社内の各部署から横断的にメンバーを募り、約8名の体制でスタートしました。途中から一部の部署で人数が追加されることもありましたが、初期段階はこの8名が中心となって推進していました。
その成果として、2023年4月3日に新しいウェブサイトを無事リリースすることができました。
―続くフェーズ1.5、フェーズ2はどのような取り組みだったのでしょうか?
磯部:フェーズ1.5では、多言語対応が大きなテーマでした。弊社のサイトは、外国籍の方にも多くご利用いただいており、より配慮した表現や記載が必要となります。以前は、このサブサイトがHTMLベースで別構造となっており、運用面でも改善の余地がありました。
そのため、フェーズ1.5では、このサブサイトをCMSに完全移行すると同時に、多言語対応を強化しました。従来はCMS外で直接入力していた翻訳文を、CMS上で一元管理できるようにすることで、更新作業の効率が大きく向上しました。
フェーズ2は、アクセシビリティへの本格対応が中心でした。
坂井:本当に段階的なアプローチでしたよね。フェーズ1ではまず“誰もが使えるサイト”を整備し、フェーズ1.5で“多言語対応によって使える人を増やす”。そしてフェーズ2では“アクセシビリティ対応でさらに幅広いユーザーに応える”というプロセスでした。段階ごとにしっかりと対象ユーザーを広げていかれた印象です。
―そのアクセシビリティ対応についてですが、当初から意識的に進めていたのでしょうか?
磯部:フェーズ1の段階から、アクセシビリティを意識した構造・デザインを取り入れていました。
坂井:ディーゼロ側としては、もともと社内にコーディングガイドラインが整備されていて、一定の配慮が行き届いているとは思っています。一定の品質は担保されていたと思います。
ただ、「アクセシビリティ」というのは単なる意識の問題ではなく、国際的な規格(たとえばWCAG)にきちんと基準を照らし合わせて対応していく、という取り組みが必要なんですよね。フェーズ2では、まさにその「基準を満たす」ことに挑戦しました。
磯部:おっしゃる通りです。一定の品質には達していたと思いますが、そこから「基準をクリアする」ためには追加の対応が必要でした。そういった意味でも、「まずできることから着手していきましょう」という提案は非常にありがたかったですね。
また、当社のサイトでは同じ構造のページが多く存在します。たとえば、試験会場の詳細ページは会場数も多いため、100ページ以上ありますが、基本的なレイアウトや構成は共通で、異なるのは写真とテキストのみです。
そのため、「まず1種類のページをしっかりアクセシビリティ対応すれば、それを全体に横展開できる」という点が非常に有効でした。結果として、プロジェクト全体の推進力を高めることにもつながったと感じています。