プロメトリック株式会社様“すべての人に公平公正な機会を”。CBT業界で初の総務省好事例に選ばれたウェブアクセシビリティ施策の舞台裏【後編】
意見を汲みつつ、軸を持って合意形成。“公平な受験機会”の実現に向けて組織を動かす
―プロジェクトを進めていく中で、社内メンバーからネガティブな反応や意見はありましたか?
磯部:はい、今回のリニューアルの中には、従来PDF形式で提供していた情報をウェブページ形式に切り替える、という大きな変更も含まれていました。ただし、PDF形式を採用していたのは、運用・管理の実務的な事情が背景にあったため、形式を変えるだけでなく、業務フローそのものの見直しが必要になる場面もありました。
そのため、実務の現場からは慎重な意見があったことも事実です。
ただ、今回のリニューアルの方針には明確な意図がありました。それは、「すべての人に公平で公正な環境で試験を受けていただく」という、プロメトリックの根幹にある理念をウェブサイトでも体現することです。
たとえば、会場設計や設備においては、車椅子での移動がしやすい動線や、文字の拡大表示、補助具の使用などを徹底しています。その延長として「すべての受験者が、等しく必要な情報へアクセスできるウェブサイト」にすることが、今回のアクセシビリティ対応の目的でした。
そのため、「アクセシビリティ」という共通のキーワードがあったことで、社内でもこの取り組みの意義を共有しやすく、大きな対立なく前向きに進めることができたと思います。
坂井:まさにその考え方を、「ウェブアクセシビリティ」という形に落とし込んでいただいた、という印象ですね。
―社内の意見をすり合わせながら進めていく過程で、特に苦労された点はどこでしたか?
磯部:フェーズ1の段階では、まだ前例もなく、何もない状態からのスタートだったので、社内外のキャッチボールの回数も相当多かったと思います。
たとえば、トップページのイラストをどうするか一つ取っても、写真を使うのか、イラストにするのか、どういった印象を与えるべきかなど、すり合わせにかなりの時間を要しました。初期フェーズということもあり、社内でも多様な意見が出やすい状況で、画像一つに対しても様々な立場からの視点がありました。
そうした中でも、ディーゼロさんには非常に丁寧に、かつ根気強く対応していただきました。
―そういった意見のすり合わせが必要なとき、最終的な合意形成はどのように進めたのでしょうか?
磯部:色々な意見が出る中で、「じゃあ、これでいこう!」と決断する場面もありました。
各部署からプロジェクトメンバーを集めてはいましたが、その人たちが必ずしもウェブの専門家ではなく、自部署以外のことには深く関わっていないケースも多かったんです。
そのため、たとえば受験者と直接関わりの深い部署の意見は重視しました。プロジェクトメンバーであっても、すべての意見を均等に反映しないように意識しました。
坂井:お客様によっては、プロジェクトメンバー全員の意見をそのまま反映しようとするケースもあるのですが、プロメトリックさんの場合はきちんと絞り込んでくださっていたので、進行しやすかったです。
特に「これは好き嫌いの話です」「ここは機能面での優劣ではありません」と、判断基準を明確にしていただけたのがありがたかったですね。
高木:特にデザインに関しては“会社の顔”になる要素も多いので、我々の方では最終判断ができない部分もあります。そういった点でも、プロメトリックさんのように判断体制が柔軟なケースは非常に助かりました。
―プロジェクトを推進する中で、「これは本当に大変だった」という局面があれば、ぜひ教えてください。
磯部:フェーズ2以降、つまり“土台ができた後”については比較的スムーズだった印象があります。ただ、やはりその“土台を作るまで”が最も大変だった、というのが率直なところですね。
高木:そうですね、まさに最初の「サイトをどうリニューアルするか」という段階が一番の山場でした。通常のリニューアルだと、既存サイトの構造を把握して、それをベースに整理・再構築するんですが…今回の場合は、その“既存の構造”自体が、もう迷宮のような状態だったんです。例えるなら、まるで九龍城のように、入り組んでいて出られない。どこに何があるのか、誰がどう使っているのかも把握しづらくて。
私自身、当時はCBTの仕組みについてもほとんど知識がなく、受験者・試験主催者・試験会場提供者といった関係性を理解するところから始めなければなりませんでした。
最初は既存ページを元にサイトマップやディレクトリ構成を再設計しようとしていたんですが、途中で「これは“リニューアル”ではなく、もうゼロから作り直した方が早い」と判断を変えました。
そこから、ある程度「こういうページは必要そうだ」という想定のもとで、「では、どの情報をどのページに整理していくか」というやり取りを、プロメトリックさんと何度も重ねて進めていきました。この情報の棚卸しと再構築のプロセスが、間違いなく一番大変でしたね。
総務省の情報アクセシビリティ好事例に選出。社内の意識醸成と社外への発信につながった
―今回、総務省の「情報アクセシビリティ好事例2024」(※)に選ばれたとのことですが、その取り組みについて詳しく教えてください。
※総務省が情報アクセシビリティに優れたICT機器・サービスを募集し、その普及を促進する取り組み。企業や公的機関がアクセシビリティを考慮した製品を開発・提供することを奨励し、誰もがデジタル技術の利便性を享受できる社会を目指している。
坂井:もともとは、弊社のクライアントであるヴェルク株式会社さんが、2023年度の好事例に選ばれたことがきっかけです。ヴェルクさんはその選出を上手くPRにも活用されていて、「ディーゼロとこういうアクセシビリティ施策をやりました」「総務省に選ばれました」といった情報発信をされていました。
今回プロメトリックさんも、アクセシビリティ対応のガイドラインを“作るだけでなく公開までされた”という点が非常に印象的だったので、「もしよければ応募されてみませんか?」とご提案させていただきました。
小松:そうですね。お声がけいただいたときに、「これをきっかけに、プロメトリックとしてアクセシビリティへの取り組みをしっかり発信できるのはいい機会だ」と考え、社内でも前向きに応募を進めることとなりました。
また、選定にあたってプレゼンテーションの機会もありました。その際には、ディーゼロさんにもご協力いただいて、発表内容だけでなく「伝え方」にもかなり配慮を重ねました。たとえば、参加される方の中には視覚や聴覚に障害のある方もいらっしゃるので、フォントサイズを大きく調整したり、画像やグラデーションの使用を控えたりと、見え方・聞こえ方への配慮を意識したプレゼン資料を用意しました。
弊社として、こうした形式での発表は初めてだったこともあり、ディーゼロさんにも同席していただきました。専門的な観点からアドバイスをいただけたことで、安心して発表に臨むことができました。
坂井:とても印象的だったのは、プロメトリックさんが「アクセシビリティ」という言葉を知る前から、すでにその精神を大切にしていたという点なんです。
“すべての受験者に公平な機会を提供する”という会社としての姿勢があって、今回のウェブリニューアルやアクセシビリティ対応は、まさにその延長線上にあるんだと。だからすごく自然な流れとして伝わってきて、決して「話題だから取り入れた」とか「外向けのPRのため」ではないんだなと感じました。
プレゼンでは質問も多く飛んでいましたが、プロメトリックさんの回答がすごく真摯で、「そんな想いで取り組まれていたんですね…」と、胸を打たれるような瞬間が何度もあったんですよね。感動的なプレゼンでした。
―好事例に選ばれたことで、社内や外部からどのような反響がありましたか?
小松:まず、総務省の好事例に選ばれたというニュースが社内に共有された際には、これまでの取り組みが公的に認められたことに対する喜びとともに、組織としての誇りを感じる声が多く寄せられました。本プロジェクトに関わったメンバーにとっても、大きな励みとなる出来事だったと思います。
また、先ほど磯部も話していたように、このプロジェクトには各部門から多くのメンバーが関わってくれていました。その人たちにとっても、「自分たちが取り組んできたことは正しい方向性だったんだ」と再確認できる機会になったと思います。
さらに良い変化として、日々ウェブサイトを更新したりコンテンツを追加したりする際に、たとえば「この色はアクセシビリティ的に大丈夫か?」といった視点で確認するような意識が、自然と根付いてきたんですね。そうした小さな意識の変化が、メンバー一人ひとりの中に確実に広がってきていることを感じます。今回の受賞は、まさにそのきっかけになったと思っています。
―選定後は、どのようにPRにつなげていったのでしょうか?
小松:プレスリリース(https://www.prometric-jp.com/news/archives/170)を掲載したほか、総務省さんが提供しているロゴも活用させていただいて、当社がきちんとアクセシビリティ対応を行っていることを社外にも広く発信できるよう努めました。
磯部:今回の取り組みは、単にウェブサイトの改善にとどまらず、企業としてのアクセシビリティへの姿勢を社外に示す貴重な実績にもなりました。こうした実績は、企業説明資料や営業資料としても活用できるため、今後の広報や提案活動にも役立つと感じています。
小松:試験主催団体様や官公庁の方といった弊社の主要なお客様への認知拡大にもつながったと実感しています。広報施策としても非常に効果的だったと思います。
磯部:国家試験などにおいては、障害のある方に対する配慮―たとえば個室の提供や時間延長、音声読み上げといった対応は、すでにある程度整備されています。一方で、ウェブサイトのアクセシビリティについては、今後さらに向上させていける可能性があると感じています。
さらに今後は、外国籍の受験者が増えていくことが予想されます。そうした中で、日本語だけではなく、多言語対応や視覚的な分かりやすさを備えた情報設計がより重要になっていくでしょう。より多くの人にとってアクセスしやすい情報環境を整えていくことが、我々の使命のひとつだと考えています。
アクセシビリティの本質を捉え、専門性の高い業態にも寄り添う伴走支援
―これからアクセシビリティ対応を検討される企業に向けて、ディーゼロと取り組む魅力や、「おすすめしたいポイント」があればぜひ教えてください。
小松:まず何よりも印象的だったのは、プロジェクトマネジメント力の高さです。マーケティング部門として、社内リソースも十分とはいえない状況の中、ウェビナーやイベントなど複数の業務を並行して進めていました。そのため、ウェブサイトのプロジェクトに専念できる体制が整っていたわけではありませんでした。
そうした中で、ディーゼロの高木さんには本当に助けていただきました。まるで私の“右腕”のように自然にリードしてくださり、「ここはこう進めましょう」「こちらは優先度を下げましょう」といった的確な判断を、その時々の業務状況や社内の方針に合わせて行っていただけたことは、非常に心強かったです。
ディーゼロさんの最大の魅力は、単なる外部の制作会社という立場を超え、私たちと同じ目線で課題に向き合い、ともにプロジェクトを推進してくれる“真のパートナー”であることだと感じています。
高木:ありがとうございます。こちらから積極的に「提案します!」という感じではなく、むしろ小松さんとの雑談の中で課題感が見えてきて、「それならこういう形で一度やってみましょうか」と自然な流れで整理していった感じでしたね。
私たちも、もっと聞きに行かなきゃ…と思いつつ、お忙しい中、常に声をかけるのも難しい。その分、会話の中で優先順位を立てていくスタイルがうまくハマったのかなと思います。
小松:本当にありがたかったです。特にCBTのような専門性の高い業態って、外部の方には理解しにくい部分も多いと思うんです。でも、ディーゼロさんはプロメトリックのビジネスを深く理解したうえで、「こういう施策が合うと思います」と提案してくださるんです。これって、他の会社さんではなかなかできないことだと思います。
磯部:我々は民間企業ですから、基本的には事業としての収益性も考えなければいけない立場にあります。アクセシビリティ対応と一口に言っても、「どこまでやるか」「どこで折り合いをつけるか」って、本当に難しいんですよね。下手をすると、見た目やプロモーション重視になりすぎて、形だけの“アクセシビリティ風”になってしまうこともある。
でも、ディーゼロさんはフラットな視点で必要な意見をきちんと伝えてくれるので、そういったバランス感覚が非常に心強かったです。おかげで、本質を見失わない、芯の通ったサイトを作ることができたと感じています。
―ディーゼロとのプロジェクトを進める中で、アクセシビリティについて新たに感じた価値や気づきなどはありましたか?
磯部:最初に「アクセシビリティ」という言葉を聞いたときの印象は、「障害のある方への配慮」というような、やや限定的なものでした。けれど、調べていく中で、だんだんとその概念が広がってきて、「高齢者の方も含め、さまざまな人がウェブサイトにアクセスしやすくすること」がアクセシビリティなんだということに気づいたんです。
この考え方って、実は我々が提供しているCBTの「すべての人に公平公正な環境で試験を受験できる取組」という理念とも非常に親和性が高いなと感じました。たとえば、物理的に車椅子の方が会場にアクセスできるようにするのはもちろんですが、ウェブ上でも「情報への公平なアクセス」を保証するというのは、同じ思想なんですよね。さらに掘り下げていくと、我々が大切にしている「高品質な試験制度」における“試験の評価の公平性”にも通じるものがあると感じました。
極端な例ですが、もし高校入試で九州の福岡の地域の問題ばかり出題されたら、その地域の人が有利になりますよね。これは本来の試験の目的とはずれてしまう。あるいは、フランス語の能力を測る試験なのに、問題文が英語で書かれていたら、英語が得意な人が有利になってしまう。そうなると、本来測りたい力が正確に評価されないことになります。
そう考えると、アクセシビリティというのは、単に「障害の有無」に関わるものではなく、「誰もが同じスタートラインに立てるようにする」という思想なんですよね。それは、我々が提供する試験の本質――すなわち「公正・公平な評価」を追求する姿勢とも、本質的に同じだと改めて実感しています。
サイトは作って終わりじゃない。ディーゼロとともに、誰もが使えるサイトに育てていく
―最後に、今後の展望を教えてください。
小松:今後は、実際にサイトを利用されている当事者の方々からのフィードバックをもっと直接いただける機会をつくっていきたいと思っています。
総務省の好事例にも選出され、一定の基準をクリアしたとはいえ、実際に利用される方の声を聞くところまではまだ十分にできていないという課題があります。プレゼンの場などでも「もう少しお客様の声を拾いたいな」と感じる場面がありました。そのため今後は、よりリアルなユーザー視点に立った検証や改善に取り組む機会を、ぜひご一緒できればと思っています。受験者の皆さまの声を起点に、より使いやすい情報発信のあり方を模索していきたいと考えています。
磯部:我々のサイトは現在、11言語に対応しており、今後さらに拡張していく予定です。それに伴って、より多様な国籍の方がサイトを利用する機会が増えていくことになるので、引き続き多言語対応についてもご相談させていただきたいと考えています。
また、新しいサービスをリリースする際には、ユーザーの動線設計も見直す必要が出てくると思います。そうしたときにも、ディーゼロさんに伴走していただきながら進められたらと。
ウェブサイトってやっぱり生き物のようなもので、完成して終わりではなく、育て続けていくものだと思っているので、今後も引き続きご一緒できると嬉しいです。
さらにもう一つ、個人的なミッションとしては、試験主催団体の方々にとって魅力的なサイトをつくることを意識していきたいと思っています。
受験者や会場運営者だけでなく、主催者の方々にも「プロメトリックに任せたい」と思っていただけるような、そんな場づくりに取り組んでいきたいですね。より多くの方が受験機会に恵まれ、試験を通じて活躍の場を広げられるような、そんな世界に少しでも貢献していけたらと思っています。
制作メンバー
| プロジェクトマネージャー | 谷口、坂井 |
|---|---|
| ディレクター | 高木 |
| アクセシビリティアドバイザー | 小出、平尾 |
| フロントエンドエンジニア | 穴井 |
| デザイナー | 岡田、渡慶次 |